第81句から第90句

第 81 句 包括の 受遺者は相続 人同然

2015年2月23日(長岡俊行)
遺言でだれかに財産を受け渡したいときは、「相続させる」方法と「遺贈する」方法があります。
 
細かい話をするとややこしいのですが、相続人には「相続させる」と記載するのが一般的だと考えてよいのではないでしょうか。ちなみに、相続人以外の人には、遺贈することしかできません。ですから、孫に遺産をあげたいときなどは、子が亡くなって代襲相続が発生していなければ遺贈をすることになります。
 
そんなわけで、遺贈はべつにめずらしいものでもないんですね。そして、この遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があるわけです。
 
「特定遺贈」は、その名のとおり特定の財産を特定の相手にあげるもので、土地建物や預貯金の口座などを特定して譲る相手を指定しておきます。
 
これに対して「包括遺贈」は、遺産の中からその人にあげる割合だけを指定しておくもので、「何分のいくつを誰々に」みたいな書き方をします。ですから、「1分の1(全財産)を遺贈」の場合を除いて、具体的に何をどれだけもらうのかは、相続人と話し合って決めないといけないんですね。
 
このとき、相続人と遺贈を受ける人(受遺者)の間にはとくに優劣がなく、受遺者も相続人と一緒に分割協議などに参加することになります。
 
ちなみに、権利だけではなく義務についても相続人と同じなので、借金などがあればそれも受け継ぐことになるんですね。
 

第 82 句 自筆遺言 使う筆には 縛りなく

2015年3月2日(井出誠)
一般的に遺言書と聞くと、自筆証書遺言をイメージされる方が多いかと思います。あの紙とペンと印鑑だけあれば簡単に作れる遺言書ね、といった感じでしょうか。
 
この自筆証書遺言ですが、自筆というくらいですから、当然全文を自筆で書くわけですが、ここで使うペンや筆に決まりはあるんでしょうか?
 
昨今、筆記用具と言っても鉛筆、シャープペンシル、ボールペン、サインペン、マジック、万年筆、毛筆……と色々ありますからね。
 
結論から言ってしまえば、自筆証書遺言の作成において、用いる筆記用具の種類に制限はありません。故に何を用いて書いても遺言書自体は有効となるわけですが、改ざん防止や長期保存の観点から、特に避けたいものもあるわけです。
 
鉛筆やシャープペンシルはその代表例でしょう。やはり簡単に消せますからね。消しゴムを使って消された場合ももちろんですが、長期保存にも当然不向きです。
 
最近では消せるボールペンなんかも世に出回ってます。事務作業なんかには便利なため使用する方も多いですね。わざわざボールペンでも消せる方を選んで遺言書を書く方も少ないかと思いますが、普通のボールペンと思って遺言書を書いたが、実はそれが消せるボールペンだったなんて間違いにも注意が必要かもしれません。
 
過去にはカーボン複写を用いて書いた自筆証書遺言が有効と認められた判例なんかもあるんですが、せっかくですからややこしいことはなるべく避けましょうね。
 

第 83 句 特定の 遺贈いつでも 放棄でき

2015年3月9日(長岡俊行)
遺言で相続人以外の人に財産を譲りたい場合は、相続させることができないので、遺贈することになります。遺贈には包括遺贈と特定遺贈の2種類があって、放棄することができる期間についても違いがあるんですね。
 
包括遺贈の受遺者には相続人と同一の権利義務がありますので、相続人と同じように、自分に遺産が入ってくることを知った時点から3か月以内に承認か放棄かを選択しなければなりません。そして、放棄する場合は家庭裁判所への申述が必要となります。
 
これに対して特定遺贈の受遺者は、とくに期間の制限はなく、いつでも遺贈を放棄することができるんですね。また、家庭裁判所での手続きも必要なく、法律的には口頭で相続人に伝えるだけでも有効です。まあ、後で証拠になる書類を作成するのが一般的なのですが。
 
ただ、いつでも放棄できるとなると、自分のもらえる相続財産が確定しなくて、相続人が困ることになるでしょう。そんなときには、遺言執行者などから、ある程度の期間を定めて「承認するか放棄するか」を決めてもらうように求めることができます。
 
ちなみに、期間内に回答がない場合は、承認したものとみなされるんですね。
 

第 84 句 遺言書に 書いた財産 処分可能

2015年3月16日(井出誠)
「遺言書を作ろうと考えてはいるが、これから財産が動く可能性もあるので……」というご相談を受けたことがあります。この方は、遺言書に記載したら、その財産には一切手は付けられない、財産が確定した後でなければ遺言書は書けないというお考えだったようです。
 
例えば、「土地建物を長男の一郎に相続させる」という遺言を残した場合でも、生前に有料老人ホームに入居するにあたって、土地建物を売却するケースもあるでしょう。
 
例えば、「○○銀行の定期預金を二男の次郎に相続させる」という遺言を残した場合でも、生前に出費がかさみ、定期預金を解約しなければならないケースもあるでしょう。
 
例えば、「高価な壺を三男の三郎に相続させる」という遺言を残した場合でも、相続発生までにこの高価な壺が跡形もなく割れてしまうケースもあるでしょう。
 
遺言は、遺言者の死後初めて効力を発揮します。故に遺言者は、生存中遺言の義務に縛られることはありません。
 
もう少し簡単に言えば、遺言者は、遺言書に記載した財産を生存中は自由に処分できます。
 
遺言は、遺言者の最終意思を尊重する制度ですので、遺言書の内容と異なった財産処分を行ったなら、その部分についての遺言を撤回したものとみなされます。それが遺言者の最終意思であるという考え方です。
 
これは2通の遺言書があれば、新しい遺言書で古い遺言書の全部又は一部を撤回したものとみなすという規定の準用なんですね。
 

第 85 句 義理の父 介護をしても 寄与分は

2015年3月23日(長岡俊行)
被相続人が生きていたときに仕事を手伝っていた人などに対して、相続分の上乗せとして寄与分が認められることがあります。
 
他に、被相続人の介護をしていた場合などに認められることもあるのですが、家族間での介護は特別なことではないという考え方もあり、なかなか認められにくいのが現状のようです。
 
さて、この寄与分、先ほど述べたとおり「相続分の上乗せ」ですので、相続人でない人には認められる余地がないんですね。ですから、夫の父親をいくら献身的に介護していたとしても、相続人でない妻は、義父の相続に関してなんの主張もできないわけです。
 
もっとも、このような妻の貢献を夫の寄与分として認める余地はあるようで、そのような結果が出ている裁判もあることはあります。まあ、あまり一般的な話ではないのでしょうけれど。
 
もちろん、夫が先に亡くなっていて、その親が亡くなるまで残された妻が世話をしていた場合などは、養子縁組をしているなど特別な事情がなければ、そもそも相続分が認められませんので、寄与分を主張することもできないんですね。
 

第 86 句 未だ見ぬ 子に財産を 遺す遺言

2015年3月30日(井出誠)
被相続人に子供がいれば、その子は第一順位の相続人として親の遺産を引き継ぐことになります。その子が、成年であろうと未成年であろうと相続人になる事には変わりがありません。
 
では、その子が相続発生時(被相続人の死亡時)に、未だこの世に生まれてきていない胎児であった場合はどうでしょうか? 民法では、私権の享有は、出生に始まるという規定があるのですが、出生していない子は、果たして相続人としての地位を得ることができるのでしょうか?
 
さて、法定相続人には順位が明確に定められておりますので、胎児が相続において子と認められるかどうかで、第二・第三順位の相続人にも影響が出てきます。結論から言えば、相続発生時において、母親のお腹にいる胎児は、その相続においては既に出生したものとみなされますので、無事生まれてくれば、第一順位の相続人となるわけです。
 
ただ、遺言書作成にあたっては、財産を遺す相手方を特定する必要があります。しかし、遺言書を作成する際には、その子はまだ生まれていませんので、生年月日も決まっていません。名前も決まっていませんし、性別すらわからないかもしれません。故に、遺言書で未だ見ぬ我が子への相続割合等を記載する際には注意が必要です。
 
まずは、子を懐妊している母親を名前や生年月日で特定し、その者が懐妊している我が子として、遺言書に明記することで、財産を遺す相手方を特定する必要があるんですね。
 

第 87 句 型落ちの 自動車相続 特例も

2015年4月6日(長岡俊行)
土地建物や預貯金と同じように、自動車も持ち主がはっきりとしているものですから、裏を返せば相続のときに名義変更が必要になるわけです。
 
売買などによって車の名義変更をする際、軽自動車であれば認め印でやり取りができるのですが、普通自動車(白いナンバー)の場合は原則的に実印と印鑑証明が必要になります。そして、これは相続のときも同じです。
 
ですから、亡くなった人が普通自動車を持っていた場合は、相続人の誰かがもらうにせよ第三者に売るにせよ、はたまた廃車にするにせよ、相続人全員の実印を押した遺産分割協議書が必要になってくるんですね。
 
ちなみに、これには例外がありまして、年式の古さなどによって相続する自動車の査定価格が100万円以下になっていれば、申請人の実印だけを押した「遺産分割協議成立申立書」でも手続きを進めることができます。
 
ただし、名称からもわかると思いますが、あくまでも遺産分割協議が成立していることが前提となっていますので、相続人の一人が自由に処分できるわけではありません。
 
そうはいっても、相続人の全員を証明する手間などは省けますので、話し合いはついているものの戸籍等をそろえる時間がない場合などには、有効な手段といえるのではないでしょうか。
 

第 88 句 事実婚 遺言で認知 お腹の子

2015年4月13日(井出誠)
昨今、結婚観の多様化から、婚姻届を出さないまま共同生活を営む、いわゆる「事実婚」を選ぶカップルが増加傾向にあるようです。ただし、我が国では、戸籍法の定める婚姻届を提出することで法律上の婚姻が認められますので、「事実婚」の場合は、法律上の婚姻とは認められません。故に、「事実婚」の夫婦間にある子供は、父親が亡くなる前に子供を認知していなければ、いくら実の子であったとしても法定相続人にはなりませんね。
 
さて、「事実婚」状態の夫が、遺言書を書く際、妻のお腹に胎児がいるケースではどのようにすればよいでしょうか? この胎児を認知するしないで、法定相続人の順位又は割合に関しても大きく影響が出てきます。胎児の認知に関しては、出生前に役所へ届け出る「胎児認知」と言う方法もありますが、ここでは、遺言による認知について確認していきたいと思います。
 
「事実婚」における子、いわゆる婚外子に財産を相続させるには、認知によって父親と子の親子関係を明らかにする必要があります。認知は遺言によっても行う事ができますし、まだ生まれていない胎児に対しても行う事ができる制度です。
 
ただ遺言による認知を行う際に気を付けたいことがあります。それは、必ず遺言執行者の選任を行うという事です。認知は役所へ届け出て初めて成立することから、その戸籍上の届出を行う人が必要になります。それを実際に行うのが遺言執行者なんですね。
 

第 89 句 仏壇や 墓の承継 慣習で

2015年4月20日(長岡俊行)
遺産分割について遺言の指定がない場合に、相続財産を分ける際の基準となるのが法定相続分です。基本的には亡くなった時点で持っていたすべての財産を合計し、そこから法定相続分を基準に分けていくことになります。
 
ただし、これには例外があって、「祭祀(さいし)に関する権利の承継」というものが、特別に決められているんですね。
 
法律では、「系譜、祭具及び墳墓」が、いわゆる「祭祀財産」として挙げられています。系譜は家系図、祭具は仏壇や位牌など、そして墳墓は墓石や墓地のことです。これらも相続財産ではあるのですが、法定相続分で分けるものではありません。
 
それではどうするのかというと、「(その土地や家の)慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」となっています。
 
もっとも、遺言で祭祀承継者の指定がされていれば、慣習よりもそちらを優先しますし、遺言はなくても生前に「お墓は誰々に任せる」みたいなことが伝えられていれば、それに従うことにはなります。
 
つまり、お墓の管理や法事の段取りをする人が、仏壇やお墓も受け継いでいくんですね。ちなみに、祭祀承継者は相続人以外の人でも構いません。
 
そんなわけで、日本では長男が祭祀財産を受け継ぐことが多かったようですが、最近はこのあたりも一概には語れないようです。
 

第 90 句 財産の 特定悩ます パスワード

2015年4月27日(井出誠)
相続が開始されますと、遺言書がない場合には、遺産分割協議を行うことになりますね。
 
遺産分割協議は、主に相続財産の取り分を話し合うわけですから、当然、相続財産の確定が必要になってくるわけです。どんな財産や負債があるのかがわからなければ、取り分も話し合えませんからね。
 
さて、遺産分割協議の対象となる代表的なものには、不動産や預貯金、証券などがございます。不動産に関しては、登記事項証明書や評価証明を収集することで特定が容易ですので、あまり問題にならないかもしれません。
 
それに対して、預貯金や証券の特定には、若干手間取るケースも増えてきております。というのも、昨今のネット社会、ネット銀行の利用やインターネット株取引等を行う方が増えてきました。そもそも株券や通帳がないうえ、やりとりもメールやネット上で完結してしまうため、郵送物等も送られて来ません。そんなケースでは、どこの金融機関や証券会社と取引があるのかを把握するのでさえ手こずります。
 
仮に存在がわかったとしても、次にパスワードがわからないためサイトにログインもできない。パソコン自体のパスワードがわからず、パソコンすら開けないケースもあるかもしれません。今はいろんな場面でパスワードが要求される時代ですからね。
 
後の相続のことを考えると、エンディングノートや財産目録にそれぞれのパスワードも記載してあげておくと、手続もスムーズに行くかもしれませんね。
 

父親に「遺言書いて」と言えない方に……


『相続川柳』を読むとなぜ遺言を書いてみる気になるのか、解説動画をYouTubeに投稿してみました。

 

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はちおうじ総務相談所の長岡です。

GONZOを名乗りながらも、当たり障りのない記事を書いています。
中小企業の経営に役立つ情報を発信していきたいと思っているのですが……